とあるプレインズウォーカーの話を続けるとしよう。

第7話 http://endlesslord.diarynote.jp/201708271543264414/

2014年4月12日(土)
愛知県名古屋市某所。
僕は、兄からもらった15年物の青いボストンバッグを担ぎ、そこにいた。
GP名古屋2014春。
ショップブースとサイドイベント目的で単独参加したそのイベントは、穏やかな天気の中で始まった。

GP初日となるこの日は、ショップブースでの買い物が主目的。
カナスレにおける対伝説生物用サイドとして《カラカス》を買ったり、2つ目のレガシーデッキを作るための《Bayou》、モダン用のフェッチランドなどを買い漁った。
その後はショップ主催クジをガンガン回しまくり、思う存分散財した。
こう言うと語弊があるかもしれないが、カード資産が増えることだけでなく、散財する行為自体をすごく楽しんでいたことを覚えている。

そんなこんなで僕のボストンバッグに入ったカードは1000枚程度。
その中には《Underground Sea》といった高額カードも含む、自分のデッキほぼすべてが入っていた。
(GP会場でトレードをするかもしれない、という予想だった。)
僕はホクホク顔で、名古屋のカプセルホテルに泊まったのであった。

そして、運命の2014年4月13日。
この日は僕の誕生日ではあったが、後日調べると仏滅。
今思うと、あんなことになってしまったのは必然だったのかもしれない。

その日の目的はレガシーサイドイベントである熊猫杯への参加。
使用デッキは直前まで悩んだが、当時よく使っていたチームアメリカではなく、カナスレを選択した。
既に慣れていたレガシーの大会を、僕は存分に満喫していた。
本気の対戦で、完全に眼前の盤面に集中していた。
ある、重要なことを見落としながら。

熊猫杯、第3回戦終了。
勝てたものの、非常に試合時間が長く、まさに熱戦だった。
僕は対戦相手に礼を言いながら卓上のカードをまとめ、椅子の下に手を入れた。

空振りした。
一瞬、何が起こったかわからなかった。
もう一度手を入れて、空振り。
恐る恐る椅子の下を覗いた僕の目には、何も映らなかった。

僕の、あの青いボストンバッグも。

僕の、1000枚以上のカードが入っていたバッグが。
色んな高額カードが入っていたバッグが。
6桁円もする、僕のカードのほぼすべてが。

消 え て い た 。


それからの記憶は、少し曖昧になっている。
対戦相手の方に必死に確認を取った。
サイドイベントのヘッドジャッジに伝え、どうすればいいかを聞いた。
大会を棄権し、多分泣きそうな顔で、会場運営と話もした。
半分無駄と分かっていながら、クロークに自分のバッグが預けられていないかを確認した。
とにかく会場を走り回り、自分のバッグを捜しまわった。

近くの交番に行き、事情も説明した。
警官の方は事情やカードの価値も理解をしてくださり、紛失届の作成にも親身に協力してくださった。
ただ、届出書類の作成途中で「財布は残ってて、空の箱が入ってる妙なカバンを見つけたんですけど…」という地元の方が来たときは、心が壊れそうだった。
(結局そのカバンは自分のものではなかった。ただ、同じような人がいた、ということは事実だったのだろう。)

結局、カバンを見つけることはできなかった。
憶測で断定してはいけないだろうけど、恐らくは盗難だったのだろう。
僕の手元に残ったものは、大会で使っていたカナスレだけだった。
(財布や身分証明書は別に保存していたため、こっちは無事だった。ただ、無事だったからこそ、カバンを追える手掛かりは全くない状態だった。)

その日の後半は、茫然自失としながら会場を歩いていた。
周りでやっている試合を見る気も起きなかった。
ショップブースを歩くことも辛かった。
途中、前日クジを引きまくったブースの方に事情を説明したところ、何も言わずに未来予知のパックを2つ譲ってくれた。
(ジョニーのお店さん、本当にありがとうございました。)
そのパックを握りしめながら、僕は会場のトイレで泣いていた。
その後、残酷なまでに穏やかな天気の中、僕はフラフラしながら帰宅した。

それから1週間、仕事を含む日常生活を送れてはいたが、カードをなくしたショックで気もそぞろな状態であった。
毎日のように、MtGを引退すべきか否かを考えていた。
こんな辛い思いをするなら、MtGなんかやらないほうがいいのでは、と。
手元に残ったカナスレも、誰かに譲ることを考えていた。

そのきっかけは、仕事からの帰り道だった。
僕はふと、「何故自分は今こんなに悲しいのか」ということを考えた。
確かに、6桁円のカードの『資産』を失くしたことは、悲しい原因の一つではあった。
ただ、一番の原因が「失くしたカードの中に入っていたデッキを、もう触れないこと」であることに、僕は気付いた。
その時、何かを吹っ切れた気がした。
「なんだ、まだ僕はMtGを楽しむことができるじゃないか」と。
資産云々よりもデッキが大事と思えるなら、まだ大丈夫だ、と。

僕は、再びやり直すことにした。
手元に残った、カナスレとともに。

(続く)

【あとがき】

以上、長くなりましたが、私が盗難でカードのほとんどを失った時のお話でした。
書いてて正直辛かったですが、僕にとってのMtGを語る中で、どうしても外せないエピソードです。
MtGに対する僕の姿勢の、基盤の一つだと思います。
カナスレへの愛着の一因も、ここだったりします。

こんなことがあったので、「カードを資産とは考えないようにする」というのが今の僕の持論です。
なかなかそうは思えないときはあるのですが、このエピソードを思い出しては自戒をしてる次第です。
このDNを見てる人の中に同じような境遇な人はいないと思いますし、そうならないよう願ってはいますが、皆様の心に届くものがあれば、僕の犠牲にも意味があったのかなと思う時もあります。

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